日中の気温が30度を超える日が増えてきました。強い日差しは、もう真夏のそれと変わりません。
訪問看護の仕事では、在宅で生活される高齢者の方のご自宅にお伺いします。外は28度超え、カンカンと照りつける日差し。室内の温度も確実に上がっています。それでも患者さんは冷房もつけず、扇風機もつけず、「暑くないよ」とおっしゃいながら過ごされています。
知識として知ってはいても、実際に目の当たりにすると、本当に危機感を覚えます。
なぜ高齢者は「暑さ」に気づきにくいのか
その理由は、加齢に伴う「身体のセンサー(知覚機能)」と「自律神経の調整力」の低下にあります。
① 皮膚のセンサーが減っていく
私たちの皮膚には、暑さや寒さを察知して脳に伝える「温点」「冷点」と呼ばれるセンサーが無数に散らばっています。ところが60歳を過ぎる頃から、このセンサーの数が徐々に減っていきます。
センサー自体が減るということは、外気温が上がっても「いま気温が変わった」という情報が脳に届きにくくなるということ。本人には「暑い」という自覚がないまま、体はじわじわと熱にさらされていきます。
② 自律神経の調整力が衰える
脳が「暑い」と認識すると、自律神経が命令を出し、血管を拡張したり汗をかいたりして体温を一定に保とうとします。しかし高齢になると、この連動がスムーズにいかなくなります。
血管の収縮・拡張による体熱コントロールの反応が遅れ、汗をかく器官も衰えるため、十分な発汗が得られません。その結果、熱が体の中にこもりやすくなります。
③ 慢性的な水分不足と、渇きを感じにくい脳
水分を蓄えるタンクの役割を果たすのが「筋肉」です。加齢とともに筋肉量が減少するため、高齢者はもともと慢性的な水分不足の状態にあります。
さらに、脳の「口渇中枢」——喉の渇きを感じるセンサーも鈍化します。脱水が進んでいても「喉が渇いた」と感じにくいため、水分補給が後手に回り、体温調節がますます難しくなります。
では、周囲にいる私たちにできることは?
これらの理由が重なり合い、本人が暑さや体温上昇の危険に気づけない状況が生まれています。だからこそ、高齢者を取り巻く周囲の人間が意識的に関わることが大切です。
体感では判断できないのですから、数値で管理することが有効です。
- 温度計・湿度計を目につく場所に設置する。「28度を超えたら冷房をつける」など、ルールを数字で決めておく。本人の「暑い・寒い」の感覚ではなく、温度計の数値を基準に冷房を作動させる。
- 定期的に水分を勧める。「喉が渇いたら飲んでね」では不十分。喉の渇きを感じにくい方には、時間を決めて「さあ、一口飲みましょう」と声をかけることが必要です。
- 訪問時に室温を確認する習慣をつける。ご本人が「大丈夫」と言っていても、部屋の温度計を一緒に確認するひと手間が、命を守ることにつながります。
また、「暑くないから」と冷房を切ってしまわれる方には、こんな声かけが助けになります。
「室温が28度を超えたらエアコンをつけましょう。寒く感じたら薄い羽織ものを一枚着て調整してみてください」
冷房の風が直接体に当たることを不快に感じる方も多いので、風向きを壁や天井に向けて調整するだけで、受け入れてもらいやすくなることもあります。
体感ではなく室温という数値を基準にして、寒さの調整は着るもので行う——このシンプルな切り替えが、高齢者の熱中症予防の大きな一歩になります。
「暑くない」という言葉を、そのまま受け取らないでください。それはご本人が嘘をついているのでも、我慢しているのでもなく、体のセンサーが正確に機能していないサインかもしれません。
この季節、どうか周りにいる方が「もう一人の体温計」になってあげてください。


コメント