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50代ナースの働き方・キャリア

胃瘻にしたら、もうコーヒーは味わえない?前を向けた『ある一言』

50代ナースの働き方・キャリア

脳神経内科病棟で30年看護師を続けている中で、胃瘻の造設をめぐる選択の場面に何度も立ち会ってきました。
「もう口から栄養をとるのは限界です。誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を繰り返すため、胃瘻を検討してください」
医師からそう説明を受けたとき、多くのご家族は言葉を失います。「胃瘻を作ったら、もう口から食べる楽しみは完全に奪われてしまうのではないか」という不安や葛藤があるからです。
しかし、現場で多くの事例を見てきた私は、胃瘻は決して「食べるのを諦めるための道具」ではないと感じています。

今回は、私が経験したある脊髄小脳変性症の患者さんとご家族の事例をご紹介します。胃瘻を選んでも「食べる楽しみ」を諦めなくていい工夫があること、そして、その工夫をご家族にどう伝えていくかを、実際のやり取りを交えてお伝えします。胃瘻の選択に迷っているご家族の方だけでなく、声のかけ方に悩む若手看護師の方にも、何かヒントになれば嬉しいです。

「食べたい」という思いと、誤嚥のリスクの狭間で

その患者さんは進行性の難病であり、少しずつ嚥下機能(飲み込む力)が低下していました。
食事のたびに激しくむせ、何度も誤嚥性肺炎を繰り返している状態でした。本人もご家族も経口からの栄養摂取が難しくなっていることは感じていましたが、
「飲み込みにくいけれど、食べたい」という本人の強い気持ちを知っているご家族も、胃瘻への決断に踏み切れない現状がありました。
医師からは「胃瘻を作った後も、嗜む(たしなむ)程度の量であれば口から摂取してもいい」との説明もありました。
しかし現実は厳しく、実際にはほんの少し水分を口にするだけでもむせ込みほとんど飲み込むことのできない状態で、スプーンで舌の上に少し乗せて味を感じる程度が限界でした。
「これでは食べているとは言えないのではないか」ともどかしさを抱えるご家族を前に、私は以前受け持った別の胃瘻の患者さんの言葉を思い出しました。

過去の患者さんから教わった「新しい味わい方」

その患者さんは、すでに胃瘻を作られている方でした。その方は本人の希望もあり主治医の管理のもと、15時の水分注入時にコーヒーを使用していました。
「胃瘻からコーヒーやジュースを入れてもらうとね、喉の奥から匂いや味がふわっと上がってきて、ちゃんと味わえるんだよ」と言われていました。
口からゴックンと飲み込まなくても、大好きなものを胃瘻から注入することで、香りや風味を楽しむことができるということを知りました。
これはその患者さんが話してくださった感覚であり、感じ方には個人差があると思いますが、
私はこの話を、目の前で悩まれている患者さんとご家族にそのまま伝えてみました。
「口からたくさん飲むのは難しくても、胃瘻から大好きなコーヒーを流して、喉の奥から香りを楽しんでいる患者さんもいらっしゃいましたよ。そういう工夫も可能です」
この話を聞いたご家族は、胃瘻に対するイメージが少し変わったようでした。
胃瘻=もう口から食べられないのイメージが強いですが、楽しむ食としては工夫により様々な対応が検討できる場合もあります。
「それなら本人の楽しみを完全に奪わずに済むかもしれない」と、造設に踏み切るきっかけとなったようでした。

お亡くなりになるまで続いた「おやつの時間」

胃瘻の造設後、患者さんの栄養は胃から安全に確保できるようになりました。
病院では嚥下状態を評価したうえで、主治医や言語聴覚士など医療スタッフと相談しながら、安全に配慮した上で、毎日のおやつの時間には、胃瘻から大好きなコーヒーを流し、口からはプリンやアイスクリームを少しだけ舌に乗せて味わう、という生活が始まりました。
患者さんが意思の疎通が図れなくなるその時まで、ご家族と患者さんのこの穏やかな時間は続けられました。
ただ栄養を補給して生かされるだけではなく、最期を迎えるその日まで、患者さんは美味しいものの味や香りを楽しみ、ご家族と定例のおやつの時間を過ごすことができました。

まとめ:胃瘻は「食べる楽しみ」を諦めることではない

医療者として「100%の安全」だけを求めると、誤嚥リスクにより口からの摂取をすべて禁止するという選択肢になりがちです。
胃瘻は栄養を確保するための手段ですが、その中でも患者さんの楽しみを残す工夫ができる場合があります。


胃瘻を選ぶことは、「食べること」を諦めることではありません。


栄養を安全に確保しながら、その人らしい「食べる楽しみ」をどう残していくかを考えることも、私たち医療者にできる大切な支援の一つだと思っています。
今、胃瘻の選択に迷っているご家族や、声のかけ方に悩む若手看護師の方に、この経験が少しでも参考になれば幸いです。


神経難病の患者さんとの関わり方について、20年の経験から学んだことをまとめた記事です。あわせてご覧ください。

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