神経筋難病病棟で勤務していると、スタッフのほとんどが同じ「二つの壁」にぶつかります。
今回は、その壁と対処法についてまとめました。今まさに神経筋難病患者さんとの関係に悩んでいる方の参考になれば嬉しいです。
第一の壁:患者さん一人ひとりの「こだわり」を覚える
神経筋難病病棟の患者さんで一番多かったのは、筋ジストロフィーの患者さんでした。
筋ジストロフィーとは、遺伝子の異常によって筋肉が壊れやすくなり、全身の筋力が徐々に低下していく病気の総称です。国の「指定難病」の一つで、症状の出方や進行のスピードは人によって異なります。
※筋ジストロフィーについて詳しくは、難病情報センターもご参照ください。
入院されている患者さんは、寝たきりの方もいれば、電動車椅子を自分で操作して動ける方もいます。ただ、進行とともに自分で動くことが難しくなっていくため、日常生活全般に介助を必要とする状態であることは共通しています。
こだわりの強い方も多く、寝ている時の体の向きや手の位置ひとつをとっても、一人ひとり違ったやり方があります。配属後、最初にぶつかる壁は、この「それぞれのこだわりを覚えること」です。
第二の壁:患者さんからの「見えない審査」
一通りケアを覚え、「やっと仕事に慣れてきた」と思った頃、多くのスタッフが次の壁にぶつかります。
患者さんによっては、一つずつ丁寧に説明してくださる方もいます。一方で、最低限の説明しかせず「先輩看護師に聞いて」と放り投げてしまう方もいます。もちろん看護師側にも、病棟に慣れるまでは必ず指導者がつき、覚えられるまでつきっきりで対応する体制はあります。
こうして、それぞれの患者さんの特徴や性格、ケアの内容を一通り覚えられた頃、第二の壁が見えてきます。
それは、なかなか信頼関係を築くことができない患者さんが出てくるということです。
看護師の側は1ヶ月程度を目安に患者さん一人ひとりの特徴を覚えていきますが、実は患者さんの側も、看護師一人ひとりの対応の仕方・ケアの仕方・姿勢を見て「この人は大丈夫か」を判定しているのです。これが第二の壁です。
ここでつまずいてしまうと、その患者さんとの信頼関係は築けないまま、勤務のたびに辛い思いをすることになります。
20年働いて気づいた、技術より先に必要だったもの
私が20年の勤務の中でたどり着いた方法は、次の3つです。
1. なるべくその患者さんのもとへ足を運ぶ
そして、その患者さんを十分にアセスメントします。疾患の情報はもちろん、性格や思考の方向性、どのケアに重点を置いているかを見ていきます。
この過程では、理不尽なことを言われたり、ケアを拒否するような言動を受けたりすることもあります。それでも「仕事」と割り切り、根気強く関わり続けることが大切です。
2. うまく関係を築けている先輩看護師を観察する
その患者さんと良好な関係を築けている先輩をよく観察し、コツを聞いてみることも有効です。
こうしているうちに、その患者さんが本当に望んでいることが少しずつ見えてきます。時間はかかりますが、一定の距離を保ちながら「私はあなたのことを理解したいと思っている」ということを、言葉ではなく行動で示していくのです。
この結果得られるのが、「この人は信頼できる」という、目には見えない思いです。
3. 共感すべきところと、伝えるべきところを分ける
大事なのは、ただ患者さんの言うことを聞くことではありません。間違っていることは間違っていると伝え、共感できる部分には共感し、共感できない部分は角が立たない言葉で伝えていきます。
正直、この関わり方は簡単ではありません。看護師として一本芯の通った考えを持ち、必要な時には患者さんのこだわりであっても否定します。ただし、しっかりとした根拠とともに伝えることがコツです。
すべての患者さんがここまでこだわりが強いわけではありませんが、介助されることに慣れている患者さんからの見極めは、結構シビアなことも多いものです。そこを見誤らず、しっかりアセスメントしながら少しずつ関係を築いていくことで、患者さんのこだわりも緩和されていく傾向が強いです。
まとめ
約20年、神経筋難病の病棟で働いてきた中で、このこだわりにぶつかり、理不尽な思いをしたり嫌な気分になったりしたことは数え切れないほどありました。
そんな中で気づいたのは、看護師として信頼を得られれば、ある程度のこだわりは緩和されるということです。
信頼関係が築けていないと、手の位置ひとつでもこだわりを発揮され、何度もやり直しをしても上手くいかないことがよくありました。しかし関係が築けてくると、あれほどこだわっていた手の位置でも「え?そんな位置でいいの?全然違うじゃん!」というくらい、あっさりOKが出ることも起こります。
こうした経験を繰り返す中で、必要なのは看護師としての「信頼を得ること」だとわかりました。
技術や知識も大切ですが、それ以上に、目の前の患者さんと真剣に向き合う姿勢こそが、こだわりを和らげる一番の近道なのだと思います。
今、こだわりの強い患者さんとの関係に悩んでいる方の参考になれば嬉しいです。
難病患者さんとのコミュニケーションについては、こちらの記事もあわせてご覧ください。



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