「すぐに言い返せる人って、かっこいいな」
昔から、私はそう思っていました。
何か嫌なことを言われても、その場ですぐに言い返す言葉が出てこない。「あのとき、こう言えばよかった」そう思いつくのは、いつも時間が経ってから。
だから私は、自分のことを「反射神経が鈍い」「損な性格だな」と思っていました。
けれど今は、そう思わなくなりました。「言い返せない時間」こそが、怒りに振り回されない自分をつくっていたと気づいたからです。もしあなたも「すぐに言い返せない自分は損だ」と感じたことがあるなら、この話が何かのヒントになるかもしれません。
穏やかで羨ましい
あるとき同僚からこんなことを言われました。
「いつも穏やかで羨ましい。どうやってアンガーマネジメントしてるの?」
そこで、ふと考えたのです。
「私、アンガーマネジメントなんてしてないけど……なぜ、そんなにイライラしないんだろう?」
自分の反応を振り返ってみると、意外なことに気づきました。私が「すぐに言い返せない」と思っていた性質が、結果的に怒りをコントロールする時間を作っていたのです。
嫌なことを言われたとき、私の頭の中で起きていること
何かを言われて、「ん?」「なんか嫌だな」「何を言っているんだろう、この人?」と思うことってありますよね。
私の場合、そこで言い返す言葉がすぐには出てきません。モヤモヤはする。でも、何を言えばいいのかわからない。
だから、頭の中で考え始めます。
「私、何が嫌だったんだろう?」「何にモヤモヤしたんだろう?」
すると、「あ、あの言い方が嫌だったのか」「理不尽なことを言われたから、嫌だったんだ」と、自分が感じたことが少しずつ整理されていきます。
そして、気づけば最初の感情から少し時間が経っています。
アンガーマネジメントでは、怒りを感じたときに反射的に行動しないため、「まず6秒待つ」という方法が知られています。私の場合は、意識して6秒数えているわけではありません。ただ、すぐに言葉が出てこないので、結果的に時間ができている。その間に、自分の感情を整理しているのです。
さらに考える。「なぜ、そんなことを言ったんだろう?」
自分がなぜ嫌だったのかがわかると、今度は相手のことを考えます。
「なんで、そんなことを言ったんだろう?」「この人は、どんな状況だったんだろう?」「何か事情があったのかな?」
そうすると、「きっと、あの環境だったから、ああいう言い方になったんだろうな」「あの人にとっては、そう思うのも仕方ないのかもしれない」など、相手の言葉の背景まで考えるようになります。
もちろん、だからといって「相手の言い方が正しい」と思うわけではありません。嫌だったものは、嫌だった。理不尽だったものは、理不尽だった。
ただ、「相手がそう言った理由」と「私がどう受け取ったか」は、別のものとして考えられるようになる。
ここまで考えると、「じゃあ、私にはどうしようもないな」「仕方ないな」というところにたどり着きます。
そして最後は、「じゃあ私は、私がいいと思うことをやっておこう」となるのです。
これって、アンガーマネジメントと似ている?
あとから調べてみると、アンガーマネジメントには、怒りに対して「衝動・思考・行動」をコントロールするという考え方があります。私がやっていたことを当てはめてみると、こうなります。
①衝動のコントロール すぐに言い返せない → 反射的に言い返すことなく、時間ができる
②思考のコントロール 「私は何が嫌だったんだろう?」「なぜ、この人はこんなことを言ったんだろう?」と考える
③行動のコントロール 「これは私には変えられない」「じゃあ、私は自分がいいと思うことをしよう」
もちろん、私はアンガーマネジメントを意識してこの方法を身につけたわけではありません。自分では「考えすぎる」「反応が遅い」と思っていた性質が、結果的に怒りをそのまま相手にぶつけないための時間を作っていたのです。
「すぐ言い返せない」は、必ずしも弱点ではない
今まで私は、「すぐに言葉が出てこない」「後になってから、あれはおかしかったと思う」という自分の性質を、ずっと「損な性格」だと思っていました。
でも、考えてみれば、その時間があったからこそ、感情のまま言い返さず、自分が何に傷ついたのかを考え、相手の事情も考え、最後には「私はどうする?」に戻ることができていたのかもしれません。
そして私は、あまりイライラすることがありません。イライラしたとしても、長く引きずることは少ない。
それは、私が特別に怒りをコントロールするのが上手だったからではなく、「すぐに反応できない」という性質が、考える時間を自然につくっていたからなのかもしれません。
だから今は、「すぐに言い返せない」「後になってから、あれはおかしかったと気づく」そんな自分を、以前ほど悪く思わなくなりました。
まとめ:時間を味方につけるという強さ
すぐに言い返せる人には、すぐに言葉が出てくるという強さがあります。
でも、すぐに言い返せない人には、すぐに反応しないからこそ、考える時間があるという強さもあります。
その場では何も言えなかった。でも、あとから考えて、「私は何が嫌だったんだろう?」「これは本当に怒る必要があること?」「私に変えられることは何?」と整理してみる。
そして最後に、「じゃあ、私は私がいいと思うことをしよう」と、自分のところに戻ってくる。それも、ひとつの強さなのだと思います。
患者さんやご家族との関わりの中でも、とっさに言葉が出ないことはよくあります。でも、それは対応が遅れているのではなく、相手のことを考える時間になっているのかもしれません。
「反射神経が鈍いから、すぐに言い返せない」そう思っている方へ。
もしかしたらあなたは、反応が遅いのではなく、反応する前に、考える時間を持てる人なのかもしれません。
すぐに言い返せなくてもいい。言葉がその場で出てこなくてもいい。時間が経ってから「あれはおかしかった」と気づいたっていい。
その時間を使って、自分の気持ちを整理してみる。そして最後に、「私はどうしたい?」に戻ってくればいい。
反射神経で勝負しなくてもいい。時間を味方につけるという、別の強さもあるのです。


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